ちは承知しねえ、自分から云つたんだ、さア云へ/\。」
 これにはさすがの清親も、一寸芝居の嘘つき者の如く参らせられて、思はず胸を後ろに引いた。で清親は、ムツと横を向いて、
「文句があるんなら、酔はない時にして貰はう。」とブツブツと小言を呟いだ。「何だ青二才の癖にして酒など飲みやアがつて……」
「何でもいゝから、百遍云つて見ろ! さア俺が勘定をするから始めろ/\……」
「お黙りなさい。」母は鋭い声で叫んだ。
「堕落書生、親父が死んでも悲しくもないのか。」と清親も怒鳴つた。
「親父が生きてゐる時分、よくも俺の親父を軽蔑したな、覚えてゐるだらう。」
「父の喪は三年だ。」と母が云つた。
「貴様には、これ程云はれても何の応へもないのか!」清親は厳然と坐り直した。
「――平気だ。さつぱり悲しくなんてないね。さて、これからまた清友亭へでも出掛けると仕様かな……」
「罰当り奴!」
「親父はさぞ悦ぶことでせうよ、清親さんのお世話になつたら……」いくら口惜し紛れの皮肉だとは云へ、もう少し鮮かな言葉もありさうなものなのに、それでも彼は一ツ端の厭がらせを浴せたつもりらしく、ツンと空々しく横を向いた。
「呆れた
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