のやうにジユツと縮み込んで、そつと清親と母の姿を眺めた。
「俺は、もう一生家には帰らない。周子とは、そんなら別れた上で、貴様達と喧嘩するぞ。」彼の気持は妙に転倒して、そんな拙いことを清親に云つた。
「勝手にしろ、自分の女房と別れるに人に相談はいらないよ。」
「……」彼は、また文句に詰つた。ほんとに周子とは別れやうか、思へば俺だつて彼奴の親父などは癪に触つてならない――そんな事を彼は思つてゐた。
「親父の位牌を背つて出て行つたらいゝだらう。」
「……」彼は涙を振つた。
「独りもいゝだらうし、親子三人伴れもいゝだらうし……」清親は、勝利を感じたらしく快げに呟いだ。
「何だと、もう一遍云つて見ろ。」彼は、何の思慮もなくカツとして、極くありふれた野蛮な喧嘩口調になつて腕をまくつた。
「何遍でも云つてやらう、百遍も云つてやらうか!」
「うん、面白い、さア百遍云つて見ろ。」
「何といふ了見だ。」母は傍からさへぎつた。とても清親が百遍それを繰り反せる筈はなく、さうなるとこゝぞと云はんばかりにしち[#「しち」に傍点]くどく追求しやうとする彼の卑劣な酔ひ振りを母は圧へねばならなかつた。
「百遍聞かないう
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