父の百ヶ日前後
牧野信一
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)家《うち》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)悪い/\
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[#5字下げ]一[#「一」は中見出し]
彼が、単独で清友亭を訪れたのはそれが始めてだつた。――五月の昼日仲だつた。
「先に断つておくがね、僕今日は用事で来たんぢやないよ。……芸者をよんで、そして僕を遊ばせて呉れ。」
彼は、玄関に突ツ立つて、仏頂面でそんな言訳をした。彼の姿を見ると、女将は眼を伏せて、黙つて頭をさげた。それで彼は、一寸胸が迫つたので、慌てゝそんな気分をごまかす為に、決して云ひたくはなかつたのだが、強ひて晴々と笑つて、
「僕だつて、斯うなれば時には独りの遊びをしたいからなア!」などゝ妙な声を張りあげて呟いだ。――斯うなれば[#「斯うなれば」に傍点]……その言葉がもう胸にセンチメンタルな響きを残した
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