の賑やかな父の居るところへ行つて一処になつて遊びたいのだ。彼は、友達とは何回かさういふ処へ行つたことがあるが、父と一処に酒に酔ふのが好きだつた。それに、父の席だと、芸者達が好い具合に彼をもてはやして呉れるので、彼はそれが嬉しくて仕様がなかつた。
「私も一処に行かう、伴れてツておくれ。」と彼の母は云つた。
「それは好くないでせう。」彼は機嫌の悪い顔をした。「僕だつて実に迷惑なんですよ。清友亭なんぞへ行くのは――」
「だから……」と母は一寸笑つた。「私も一処に行かうよ。今夜こそは、満座の中で阿父さんにきつぱり意見してやる――」
 彼は、ゾツ[#「ゾツ」に傍点]と身震ひした。……定めし阿母は、やる[#「やる」に傍点]ことだらうな――と思つた。
「お止めなさい/\。柔かく当らなければ駄目ですよ。……阿父さんに気の毒だ。」
 母と彼は、俥を連ねて清友亭へ駆けつけた。
「私は一寸買物をして行くから、お前は先へ行つてゐてお呉れ。」
 母は途中でさう云つた。
 彼は廊下でお蝶と出遇つた。彼は堪らない気遅れを感じた。一寸挨拶が出来なかつた。
 お蝶は嬉しさうに笑つて云つた。「今お宅へお電話を掛けるところ
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