」と父は快げに賛同した。「何とか使ひ道はないものですか?」
「僕の社に世話をしませうか、僕は現在では議会方面を担任してゐますが、もう一人や二人は若い記者が必要なんですがね……」
「うむ、そりやいゝですなア、男は政治方面に入り込まなければ嘘です。」
「帰つたら早速取り計ひませう。」
彼は、凝ツとして其処に坐つてゐられない気がした。親父が子供のことを、何分よろしく――なんて、さぞ/\皆な肚のうちで笑つてゐることだらう。
「この土地はこれで花柳界の方は仲々……ださうですな、社の連中の噂にも稀には出ますよ。」
「とても……」さう云つて父は一寸顔を赤くしたが、幾らか酒が回つてゐるらしく急に元気な声を挙げて「どうです諸君! 出かけて飲まうぢやありませんか……」などと云つた。
「よう、よう、賛成/\。僕らはもう学生ぢやないですからなア。」
「僕ア……」と彼の父も云つた。「頭はこう禿げてゐるが……」
「いよう、タキノの親父は素的だなア……」
斎藤は、見るからに上べの冷笑を浮べて、からかつた。
父は彼に、耳打ちをして、何故こゝにもお酌を呼ばないかと詰つた。彼は意地悪く聞へぬ振りをしてゐた。――父は
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