自分達だけは小高い丘に坐つたつもりで、他人を冷笑することの好きな母と子は、不気味な親しさに溶け合つて、卑しい笑ひを浮べた。
「あたしはあなたを見損つた。実に男らしくない人だ。」周子は、お蝶達の前もあつた為か、蒼い顔をして唇を震はせた。「今迄お金のことなどに就いては、如何にもキレイな顔をしてゐたのは大嘘なんだ。親同志が話し合つてしたことを……」
「親同志、なる程ね、得をした親の方はいゝだらうが、此方は損をしたんだからね、……」彼は落付き払つた態度をした、だが、なる程今迄は周子の前では、度胸が大きく金銭などに就いては非常に高潔振つてゐたことを思ひ返して、一寸我身に自ら矢を放つた思ひがして小気味好かつた。
「……何が芸術家だ! 友達などに会ふと体裁の好いことばかし云つてゐるくせに………」
「お前にも今迄は体裁の好いことをワザと云つてゐたんだよ。」
「大うそつき! そんな嘘つき芸術なんて……」
「あゝさうだ/\。俺は芸術家でもなんでもありませんよ、私には、あなたのやうに高尚な気分なんて生れつき持ち合せないんですからなア――だ。」
 大分酔の回つて来た彼は、ほんとにさういふ気で、憎々しくふて
前へ 次へ
全53ページ中32ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 信一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング