に母を操つてゐる気がした。
「そりやアさうね、その日暮しのそだち[#「そだち」に傍点]をして来た者は御苦労なしだよ。……だからお前がそこをしつかり教育さへすればいゝんだ。」
「なまじイヽ家からなど貰ふと反つて気詰りでせうね。」彼は多分の皮肉を含めたつもりだつたが、母にはそれが通じなかつた。
「さうとも/\。」と母は易々と点頭いた。するとまた彼は、自分だけで周子に憤懣を覚へた。自分よりか、この阿母の方が矢ツ張り好人物なのかな? そんな気がした。
「これからはお前の代なんだから、痩せても体面を汚さぬようにしなければいけないよ。」
彼は、もう少しで噴き出すところだつた。
――彼は、若き男でありながら卑屈な姑根性なるものが、よく解る気がしてならなかつた。母の態度に、それを見る時、それを興味深く思ふこともあつた。飽くまでも執念深く発揮すれば面白いが――そんなに思つて不足を感ずることさへあつた。若し自分が、女に生れて、そして年を取つたら、古めかしい型通りに卑屈で強情な、さぞさぞ意地の悪い鬼姑が出来あがることだらう――彼はそんな空想に走つたりした。
「あそこの母親もね……」
「フツフツフ、……」
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