たが、そして彼はそれでは一寸味気ない気もしたが、人生を遊戯視してゐるも、してゐないも、そんな理屈は考へたこともなかつたし、彼等からさう云はれると、或はさう云ふ種類の人間かな? と思はれもした。といふた処で、何とするわけにもゆかず、有耶無耶に彼等から離れて仕舞つたまでのことだ。そして、洞ろで悲しいやうな心を抱いて東京を離れた。
「あゝ。」と彼は思はず溜息を洩した。「俺は何といふ阿呆な人間だらう、何といふ頼母しくない男だらう。」そんな風に鞭打つて見ても、何ら感情が一点に集中して来なかつた。彼等の所謂「芸術的」にも「真剣」にもなつて来なかつた。
「あなた! 何を考へてゐるの?」
「いや、兎も角、お前達を伴れて東京へ行くとなると……」
「心細いの?」
「うむ……」
だが彼は、別に心細くもなかつた、と云ふてその反対のものでもなかつた。
「古い十三人のお友達だつてあるでせう、その人達の中には一人や二人は、あなたの思案にあまることは、相談になつて呉れる人だつてあるでせう、河原さんといふ人や石黒さんといふ人や……」
そんなことを云はれると、彼は急に変な心細さに襲はれて、
「お前に斯んなことを云ふの
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