女学生の活人画が催された。私の母は、その舞台監督に徹夜で振付してゐた。
 夜に入つての余興には青年軍楽隊や少年剣舞が番組された。どうも私の挙動が日増に女々しく腺病質の傾向が萌してゐるといふわけで、婆さんに付添はれて大分前から剣舞道場に通つてゐたので、是非とも出演するように方々から指命されたが、私は終ひに泣いて拒んだ。どういふわけか、兼々私はあの如く誇張された武技の、勇壮な擬態振りを非常に嫌悪して居り、且つはまた凡そ身柄に添はぬ業と敬遠してゐたにも関はらず、日頃の道場では抜群の成績だといふ評判だつた。私は婆さんに見張られてさへ居なければ無論逃亡したのであるが、否応なく伴れ出されて、いざ舞台に立つて演技にとりかゝると、まるで人間が変つたように活溌至極と化し、今では婆さんでさへもが、陶然として見惚れずには居られなくなつたといふのであつた。私は之だけこそは大層な矛盾を感ずるだけで、決して得意になどなれなかつたのに、私の稽古が始まると近所の人はわざ/\見物に集つて、美しい悲憤の涙や、絶賞の大喝采を惜まなかつた。
「ねえ、今日こそおばあさんが折入つて頼むから、是非とも出てお呉れな。郡長さんまでが見
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