度いと仰言つておいでなんだもの、度胸を決めて出てお呉れ、ねえ、ねえ……」
 婆さんはもうおろ/\としてゐたが、頑として私は動かなかつた。私は自分でもその頑迷さが解らなかつた。
 その代り私は、余興が幻灯会に移つた時にちよつとの間だけ映写技手をやらせて呉れと申出た。花輪車といふロクロ仕掛のウツシ絵が唯一の動く絵で、色絵具で塗つた二枚合せの硝子板が夫々逆に回転されると、恰度万華の花片がむく/\と涌きあがるかのやうに見え、手風琴や竹紙《ちくし》の横笛などが加はる青年バンドに調子を合せて、技手はたゞそれをぐる/\回すだけであるが、次第に急速に進む音楽と共に、いつまでも回つてゐると、見物は鬨の声を挙げて悦んだ。大概それが閉会の合図であつた。私は普段独りで工夫して、誰にも観せる筈でもなかつた手製のウツシ絵を取り寄せて、決心の胸を震はせながらその後で映写した。
「えゝ、こゝに番外として御紹介致しまするのは……」
 と専門の弁士が私の名前を口にして、この工夫画を吹聴するのを耳にすると、私の全身は火のやうに熱くなつた。その絵といふのは短冊形の長い硝子板に様々な行列やら軍艦の数々などを描き、一端から小刻み
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