に繰り出して、回り灯籠のやうに多くのものゝ姿を順々に引き出すのであつた。その晩私は、軽便鉄道が今や濛々たる煙りを吐いて出発する一巻や、祝賀の行列が軍楽隊を先頭にして繰り出す光景などを映写した。普段は婆さんと阿母だけが見物人で、私は口笛を伴奏にするだけなのに、その晩は、ほんとうの楽隊が調子を合せて、汽車の歌や、祝賀の歌を奏したので、私は全く有頂天となり、指の先は思はずブル/\と無技巧的に震え、却つてそれが汽車の走り出すさまを写実した如き効果を呈した。スクリーンの向方側には何万とも数知れぬ見物人がゐるやうに思へた。事実この映画は、割れ返る程の人気を博して、同じものを二度も三度も上映させられた。素晴しい楽隊の伴奏があつたからこその面白味だつたのに、忽ち私ばかりが八方から感激の嵐を浴びた挙句とう/\町長さんに手をとられて見物人の前に立たされた。(映写機は幕の裏側にあつて、見物人は反対の表面から見るのがその頃の常例だつた。だから私は技手としての姿を人に見られる心配はないと安心してその役を申し出たのでもあつた。)
半紙大ほどの土地の新聞は早速と「天晴れ牧野少年の発明幻画を讚ふ」といふ大見出しで、
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