その「奇智に富める工夫」を絶賞し、諸名士の感激談までを併載した。それを読んだ婆さんと阿母は声をあげて、嬉し涙に掻きくれ、山高シヤツポを何故か稍あみだ風にかむり、厳然と構えて眼を据えてゐるが、軽く口腔をあけつ放しにしてゐるのが何だか折角の威厳をそいでゐるかのやうなお爺さんの、今はもう大型の額ぶちに収まつた写真となつて物をも言はぬ肖像の下に、三人は頭をならべて平伏し、誉れに富んだ報告祭を営んだ。
「おぢい様が御丈夫だつたら……」
婆さんはそればかりを繰り返した。
「これぢや、登りでも下りでも歩く心配もなけれや、後おしも要らず安心だね。」
私たちは打ちそろつて梅見へ出かけた。ところが真鶴を過ぎるころになると、激しい煤煙と振動のために婆さんも阿母も攪乱を起した。「軽便」の煙突は釜に不釣合に細長くて頂きに網をかむせた盥のやうな恰好のものが載つてゐるので、暴風などにあたつて激しく揺れ過ぎると、中途からポツキリと折れることがあつた。しかし私は、その機関車の姿を指差して、
「ねえ、母さん――スチブンソンがつくつた汽車の画に似てゐますね。」
と好奇心の眼をそばだてた。
「岩吉は機関手になる試験を受
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