を傾げたり、噴き出したりした。
伊豆山寄りの崖の上に西洋風のホテルが出来て物珍らしく、日曜にはダンス会が開かれるといふので、彼女は切りと私を誘ふのであつたが、二度も偶然に酔払つた阿父と出遇ひ、
「山小屋の、へつぽこハムレツトが来やがつた。俺には手前えの顰つ面の理由は解つてゐるんだぞ。」
そんなことを凡そ屈托のない巻舌の英語で、大いに笑ひながら喋舌りかけたので、私は二の句も告げなかつた。すると狸腹の紳士や、狐憑きのやうな千三ツ屋が、声を合せてドツと笑つた。彼等は、酔つ払つた阿父を、見兼ねてゐる息子の照れ臭い様子が座興とでも見えたらしかつた。阿父は、俺の事業は悉く成功するに決つてゐるんだから、貴様も一そ「憂鬱学」(それはリテラチユアさと彼は註して)を分析するような学業などは放擲して、埋立会社長の秘書にでもならんか、二百円位ひのサラリイをやるぞなどゝ云つた。
「汽車が先づ小田原まで延び、真鶴に達するころになれば、丹那トンネルが完成して、熱海は一躍東洋の楽天地《ルナパーク》になるのだ、勢ひ土地の狭隘に迫られて、海岸一帯の埋立工事を急がなければ漫遊客の収容に事足りぬわけだ。」
阿父の一団が
前へ
次へ
全34ページ中29ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 信一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング