手に手に美しい歌妓を携へて附近の温泉場を会議場としながら株式の設立をいそぎ、祝盃に祝盃を重ねて素晴しい大夢に恍惚としてゐた有様は、さながら海賊の度胸にも似た豪胆さと奔放無碍なるお祭り気分であつた。私も、いつの間にかニワカ金持の分身の態にヤニさがつて、憂鬱な学業などは顧慮しなかつた。汽車は間もなく噂の大渦を横切つて小田原へ達し、大祭の提灯行列、更に真鶴に延びて大花火の万雷は空を覆ひ、沿線の春秋は三年、四年の年月を鬨の声を浴びて、興奮の竜巻の中を邁進した。
「お前だけは、まさかと思つてゐたのにとう/\ワイワイ連の手下になつたのかね。」
阿母はひとり涙を滾して、私を引き据えようとしたが、今では滅多に吾家には戻らうともせず海岸寄りの上等地帯に新しい和風の粋な別荘などを建てゝ不安を知らぬ阿父の方の騒ぎが耳にこびりついて離れず、私は恰で遊蕩児のやうに阿母の言葉などは何処吹く風かとばかりにうけ流して、海賊連のお先走りであるかのやうに浮れた。
ところが大トンネルの難工事が漸く不吉な噂を流すころになるに従つて、彼等の所謂「世界的不景気」なるものゝ暴風が次第に逞しく荒れ始めるに伴れて、地価などゝいふも
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