タ。私ノ中学ノ幾多ノ先輩ガ窮屈極マル――ソレハ日露戦争時代ノ軍事教育ヲ旨トシテヰル老曹長ナル学生監《チユウタア》ノ圧迫ガ酷イノデアルタメ――学窓ヲ放タレルト同時ニ急ニ不思議ナ紳士《おとな》ニナツテ数々ノすきやんだるヲ遺シテヰルノヲ見テモ実ニ寒心ニ堪ヘン次第デアリマス。」
「オヽ、頼モシキ思想ノ持主ヨ、新日本ノ後継者ハ立派ニ新シイ騎士道ヲ樹立セナケレバナランノダ、女学生ト附キ合ツテ Girl−shy(助平心)ヲ起スヨウナ習慣ハ少年ノウチカラ彼女等トノ交遊ニヨツテ振リ棄テルヨウニシナケレバナランノダ。」
「非常ニ私ハ女ノ友達ガ欲シイヨ。」
 こんなことを若しも日本語で喋舌つたならば、即座に阿母は薙刀でも持出して、そこへ直れとでも叫ぶだらう――などと私達は笑つた。大体私と彼が、そんな会話を用ひるのを阿母は眉をひそめたが、それは単に語学の練習だと云つて納得させた。私も折々自分の喋舌ることを秘かに自分の胸に和訳して見ると、気狂ひにでもならなければ到底口にすることも適はぬ気障つぽさだと首をすくめたが、そんな反省などは喋舌つてゐる限りは何も残らなかつた。間もなく横浜からナタリーの一家などが遊びに来る
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