あつた。私には父の態度が、祖父母や母の古風なミリタリズムの教育風とは全くその趣きを異にして、突ぴよう子もなく自由気なのが余程の驚きであつた。
「何ダイ、オ前ニハ女学生ノ友達ガヒトリモヰナイナンテ、随分気ガ利カネエハナシダナ。早速俺ノ友達ノ娘ヲ紹介シテヤロウ。素晴シイ別嬪ダゾ。」
彼は斯んなことを云つて私の肩を叩いたりした。尤も彼と私の会話は、自家の中では英語ばかりだつた。私はあの如く余程成長してから始めて父親の姿に接し、元来はにかみやであつた所為か容易に日本語では即座に「お父サン」などゝ云つて親しめなかつた。それが父親に会つて以来は益々ペラペラと外国語を喋舌べれるようになると不思議と、何うしても日本語では云ひ憎い感情でも思ひのたけでも難なく滑り出すのが吾ながら異様だつた。
「ソレハ甚ダ有リガタウ、私ノ親愛ナル父サンヨ、私ハ従来、男女七歳ニシテ席ヲ同ジクスベカラズトイフ道徳的観念ノ中ニ育テラレ、ソレハソレトシテはんさむナ掟トシテ反抗心ナド抱キハシマセンガ、近頃特ニ思考シテ見レバ、ソレハ伸ビヨウトスル青年ノ心ニ稍トモスレバ Blue−Devil《ゆううつ》 ノ陰影ヲ宿ス源因ニモナルト思ツ
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