ようになつたりして、弥々私はお喋舌りになり、自転車をそろへてピクニツクに赴いたり、老若入れ交つてテニスに耽つたりして、間もなく中学を終へようとする頃になると、枳殻の生垣にとり巻かれた屋敷の隅々に測量の杭などが打たれ出した。熱海線の敷設がいよ/\開始されたのである。土地の売買する周旋人見たいな人物が、日毎におし寄せて阿父をとらへて、
「大したもんですな……」
 と云つた。彼の卓子の上からは稍ともすればそれまで愛読してゐた旅行小説の叢書や鳥類剥製の道具やらが影をひそめて、測量図とか法律の本で一杯になつた。それと同時に彼の面上からは、今迄私を相手に冒険談などを聴かせて夜の更けるのも忘れた折の鷹揚な影も消え失せて、訪客ばかりを相手に厭に、深刻気《グルウミイ》な眼を据えて、万円とか幾十万円とかといふ話題に熱を吹いてゐた。つまり昔は一銭五厘位ひで買つたものであり今迄は売るともなれば二円でも三円でも買手もなかつたといふ屋敷や、真鶴の田畑や、熱海の山林などが、一坪の価が百円、二百円と、日増しに暴騰するのであつた。
「僕は決して手離しませんよ。自分としてのいろ/\の計画があるんだから……」
 別の人から
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