々は、努めてゞはなしに、笑ふやうなことばかりを多く話した。
「前の日に法事をして、それから九日にお墓参りをするんですね、ちやんと知つてるさ、それを×子てえばさあ、九日にいちどきに済せるんだなんて……強情!」
「それは、昔から――」
「いゝえ、あたしのお父さんの国ではさうだつて云つたゞけなのよ、お母さん。」
「手紙だけは、昨ふ方々に出しておいたよ、お前の名で――あとのことは、お前が帰つて来てから相談しようと思つてゐたんだが、もう今日となつてはそんなことも云つて居られないんで、大体、決めたが――」
「それは、どうも――ハ……。それだあからよう、私あ、もう、どうしても今日のうちにやあ帰るべえと思つてねえよう……」
「汽車に乗り遅れた時、何さ!」
吾々は、他合もないことを飽きずに語り合つて、夜が白々とする頃寝に就いた。
三月七日
自分は、午近くに起きた。ふつと眼が醒めた時には、何時もの東京の部屋かと思つた。居るだけで好いのだ、その他には自分には用はないので、母から少しばかり金を貰つて街に出かけて見た。
好い天気である。
東京の家で、苛々しながら机に向つてゐたことを思ふと何だか可笑し
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