秒を要し、また一分十秒、さうかと思ふとたつた四十秒のこともあつた。四十秒の時は二三人の乗員であつた。
 さつきの下降の時は一分四十秒を費し、今度の上昇は恰度一分であつた。私は、完全の空と満の場合の差違を知りたかつたが、いつか一時間あまりも夕暮時にその機会を窺つたが空の場合に出会ふことは出来なかつた。私は、斯んな大きなリフトが人二三の軽重に依つて速力の影響を見るのに、つまらぬ親しみを覚へたりしたのである。この昇降機は三十分のうちに約十回の往復をする。
 そんなことを思つて私が七階の昇降口を何時までも凝つと視詰めてゐた時、私の傍で恰度私と同じやうに腕を組み眼を据て同じ角度に向つて深い思索に陥つてゐる怪し気な紳士が居ることに気づいた。そして彼は私が気づいた事も知らずに益々熱心に両眼を輝かせ、時々慎重に指折して何事かを数へたり、微かに点頭いたり、太い溜息を衝いたりしてゐるかのやうであつた。客が降りて来ると片隅に退き、降つて行くと、サツと入口の扉の所へ駆け寄つて、少しく大業に形容すると、石の落ちて行く感度に耳を傾ける芝居の丸橋忠弥見たいに首を傾げて、ギヨロリと上眼をつかつたまゝ(昇降機が降つた間
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