日本橋
牧野信一

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)首途《かどで》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)屹度|昇降機《エレベーター》の

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)これから[#「これから」に傍点]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)いち/\これを
−−

     一

(第一日)快晴――私は八時に起床して、いでたちをとゝのへ、首途《かどで》の乾杯を挙げ、靴を光らせ、そして妻の腕を執り、口笛の、お江戸日本橋――の吹奏に歩調を合せながら、この武者修業のテープを切つた。麗かな朝陽のなかには、もう春の気合ひが感ぜられる。
 これから旅へ向はうとする気色ばんだ汽関車、終夜の旅を終へて眠りの庫《くら》に入らうとする車達の入り乱れた響きを脚下に感じながら八重洲口へ向ふ長い歩廊の窓から、さて私が、これから[#「これから」に傍点]八日の間、見聞の眼を虎のやうに視張つて訪問する筈の、お江戸日本橋の空と甍を眺めると私の胸は、恰も長い航海の後に見知らぬ国に着いたかのやうにときめいた。私は、
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