云つたかと思ふと、矢庭に腰から拳銃を引き抜く真似をして、筒先を天井に向け、口で、ドン・ドン! と叫んだ。そして勢ひをつけて立ち上らうとすると、恰で脚がふら/\として、今迄の凄い科白とは凡そ反対に意気地なく危く倒れかゝつた。私は、思はず飛びついて彼の胴仲を支へた。
「よし/\、もう解つた/\!」
と彼は忽ち好意の微笑を浮べて私の肩をつかんだ。「ハツハツ……日本橋の真ン中で山賊と馬賊が渡り合つても仕様がねえ。なあ、ロビン、見たところ金火箸見たようなチビ男だが、俺の科白に驚かなかつたのは、さすがに山賊らしかつたぞ。兄弟分にならないか。」
「顔だけは大分前から知つてゐたが、妙なことから口を利いたものだね。驚いたよ。」
「俺の家に遊びに来ないか、直ぐ其処だ。」
「未だ時間が早いな。俺はこれから日米に寄つて踊つて来るんだ。一処に行かないか。」
「絶対に厭だ。――ぢや俺の家の近所に来い、綺麗な昔ながらの踊りを見せるよ。」
藤田氏は盃を少々遠慮しはじめた私の口に突きつけて、大いに飲み、そして俺の家に泊れ、と云つて諾かなかつた。――夜の、日本橋の此方側の酒場風景で、凡そ見失ふことのない点景人物の名前
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