強さうに音声の調子を落して唸り返した。「何だつて、ピストルだつて! 何方が嗤はせやがるんだい。さあ、そこに、そんなピストルを出して見やがれ。」
すると親父は、妙な当惑顔を示して、鋭く舌を鳴した。
「何処まで感の悪い野郎だらう。馬賊のピストルてえのは俺らの仇名なんだよ、知らねえのか?」
「知らないね。知らないといふ絶対的事実は決して恥と思はんね。」
「知らせてやらう。俺らは此辺の……(凄い巻舌で開きとれなかつた。)だが、十年このかた満洲の山をごろつきまはり……」
「能書は聞きたくないぞ。江戸ツ子の癖に満洲くんだりまで出かけて、ピストルを……」
「違ふてえんだよ。間伸びのした野郎にかゝつちや此方がてれちやふぞ――。満洲と云つても、それは少々わけが違つて……えゝ面倒臭せえな!」
と彼は焦れ、咳払ひをした後に改めて物々しく、
「こいつが!」
とコツペ・パンのやうな腕を突き出して詰め寄つた。「ピストル程にも物を言ふ株屋町の馬賊で通る男なんだ。手前えは何処から現れた風来坊だい?」
「シヤーウツドの森から出て来たロビン・フツドの党員だ。」
七
「ようし、外へ出ろ!」
彼は、さう
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