区別もなく、青春の熱烈な恋愛の感情に満足を覚へながら最も健全な生活が得られることに自信を持つてゐるのであるが――そんな、云はゞ夢のやうな陶酔状態が何時まで続くか――。
「村井は、空想のうちで結婚の誘惑に駆られはぢめたのです。」
「まあ、面倒な云ひ方をする人達だわね――はつきり誰ツて? 解らないの。」
「村井は、百合さんに恋してゐるんでせう。」
 と竹下が思ひ切つたやうに云ひ放つた。
「それは違ふわ――」
 百合子は、自分の言葉の矛盾してゐるのに気づかず、
「それは守夫さんだわ。」
 と云つた。
「ところが――」
 と竹下は続けた。「百合子さんと云ふ代りに村井は、ローラと云ひ換へても、八重さんと云つても――関はないんだつて……」
 百合子は何の憂色も浮べずに、
「大分話の方向が物騒になつて来たわね。」
 竹下さんも、それで――村井さんと同じいけ[#「いけ」に傍点]図々しい理想派といふわけなんぢやないの――と云ひ放つて先へ駆け抜けた。
「それが、つまり、今、彼が書き続けてゐる仕事の主題《テーマ》となつてゐるわけなんですが……」
 竹下は百合子を追ひかけたが轡がうまく並ばないで、声を挙げて、
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