南風譜
牧野信一
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)卓子《デスク》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)恰度|頤《あご》の
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)毎日/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
−−
一
卓子《デスク》に頬杖をして滝本が、置額に容れたローラの写真を眺めながら、ぼんやりと物思ひに耽つてゐた時、
「守夫さん、いらつしやるの?」
と、稍激した調子の声が、窓の外から聞えてきた。
(誰だらう?)
滝本は、この時、見境へもなく、返事が出来るほど、心が晴れやかでなかつた。
「矢ツ張り、留守なのか知ら?」
と、窓の外の人は呟いだ。
それで、滝本に――百合子だ……と解つた。恰で、他人と会話をするのと同じ調子の明瞭さで、稍ともすると和やかな独り言を呟くのが、滝本の印象に一番鮮やかな百合子の特徴
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