「つまり吾々の理想生活の発端といふのが、個性を超越した漠然たる夢の……花やかな円形競技の――」
などゝ意味の好く解らぬやうなことを朗読する見たいに歌つてゐた。
乗手を置き去りにしたリリーとミドリが竹下の後から坂を昇つて行つた。――ローラと八重は河原に降りて蜻蛉を追ひかけてゐた。
馬を洗つてゐる男の傍に何時の間にか太一郎と堀口が現れて、娘達の様子を眺めると二人は、
「やあ、好い処に居るぢやないか!」
と顔を見合せた。
「八重――」
と太一郎が呼んだ。何故か彼は何時でも八重の名を呼び棄てにした。「ローラさんはもう、リリーに慣れたかね。」
「えゝ、慣れましたわ。」
八重の代りにローラが何か感違ひでもしてゐる見たいな顔つきで、早くちの英語で答へてゐた。「今も皆なで行列をつくつて、駆けて来たところです。」
「此方のものだよ。」
太一郎が眼を輝かせて堀口に囁いた。
「私の馬をお借しゝませう。」
「八重は俺のにお乗りよ――競馬場へ行つて遊ばうぢやないか――ローラさん、珍らしい蝉をとつてあげますよ。」
太一郎と堀口は滝本達が競馬場へ向つたことを知らぬ様子であつた。
十二
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