節が近づいたので武一は、これが最後だといふ意気込みで、ラツキーのオーミングに余念がなかつた。その懸賞競馬にラツキイを出陣させて、皆なの出京費を儲けるといふ意気込みだつた。村井の「南方の騎士」にしろ、滝本の「星学大系」にしろ相当の報酬が得られる筈なんだから、もう隠退することに決めたラツキイを今更レースになんて出さない方が好からうと皆なが忠告するのも諾かず武一は、堀口や篠谷達への手前にも、何うしてもラツキーを勝たさずには置かない――と無闇に躍起となつてゐるのであつた。
篠谷の太一郎は新しい馬を購入して、競馬場の人気を引きさらつてやる――といき巻いてゐるといふ噂だつた。堀口も亦近頃新しい馬の持主となつて、何某といふ騎手を手込めにして大儲けを仕ようとたくらむでゐるといふことであつた。道理で、近頃彼等は、こゝの家の土蔵のことにも、ローラに関する遺産の横領に就いての戦略にも(或ひは、此方側がそれに関しては余りに恬淡に放擲したので首尾好く占領し終せたものか――。)頓着なく、馬で、気狂ひになつてゐるといふ話であつた。
「リリイは出さないの?」
滝本が不図八重に訊ねると、
「えゝ――」
と八重は、
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