先きから竹下が見あげて声をかけた。微風をはらんだカーテンがふわ/\とゆらいでゐたが村井の姿は現れなかつた。
「セブラ――起きろよ。」
 竹下は切りに呼びかけてゐたが――村井は危く寝台から落ちさうな姿で、ぐつすりと寝込んでゐるところなので、百合子やローラも一処になつて呼びかけたが、無論、無駄であつた。
 友達が編輯してゐる雑誌に「|南方の騎士《シルバー・ナイト》」の第一稿が載りはじめてゐたので、この頃の村井は、その続稿の執筆で徹夜を続けてゐる状態だつた。村に居る間に彼は、その創作を完結してから、皆なと一処に意気揚々と東京へ引きあげる決心だつたから――。
 寝台の傍らには、しほりを挟んだ古典の伝奇小説の本やら、画集の類ひやらが四散してゐて、卓子《テーブル》のまはりには書き損じの原稿が破かれたり丸められたりして飛び散つてゐた。
「誘惑の沼とセント・ジヨージ」
(第三章)――卓子の上の原稿には鷲ペンの太文字で、そんな表題が誌してあつた。鷲ペンの先をナイフで削りながら、文字を書くのが村井の趣味だつた。
「いくら呼んだつて駄目だよ、村井はもう少し前に眠つたばかりなんだもの――」
 泉水を隔てた書院
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