、何か歌ひ出さうとした時、一同は、遥かの後ろから、声を限りに呼びかけて来る物音に気づいた。
「おーい、待つて呉れ!」
振り返つて見ると堀口を先に立てゝ四五人の男がキヤベツ畑の畦道を伝ひながら一勢に双手を挙げて、夢中で呼ば張つてゐた。
「あツ! 逆襲して来た!」
ローラは悲鳴を挙げて滝本の胸に突つ伏すと日本語で「あんちくしようめが!」と叫んだ。
ギラギラとした逆光線をまともに面上に享けて、大口をあけて叫んでゐる堀口等の表情が、嘗て覚えたこともない獰猛さを溢《みなぎ》らせて、寧ろ怪奇的に、鬼のやうに滝本の眼にも映つた。
十一
竹下は、シーズンの制作に、海辺の風景を選んで、麗かな日だと午前《ひるまへ》から百合子やローラやそして八重達を誘つて、馬車で海辺へ通つてゐた。村から海辺までは、河添ひの田甫道に添つて一里近くの道程《みちのり》だつたが、娘達はビーチ・パヂヤマのまゝで、ギターや手風琴などを抱へて繰り出して行くのであつた。
「村井――もう起きたのか? 一処に出かけないか?」
村井の部屋となつてゐる蔵前の中二階の窓が開け放しになつて朝陽が窓掛けに射しかゝつてゐるのを、庭
前へ
次へ
全106ページ中87ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 信一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング