を知らず口にして百合子に笑はれた時のことを滝本は思ひ出して何やらヒヤリとする思ひに打たれて口を喊《つぐ》んだ。あの時考へた「結婚」の妄想は、さま/″\な事件に追はれてゐるうちに自分ながら烏耶無耶になつてゐたが、百合子の胸には何んな風なかたちで残つてゐるのかしら? と滝本は思ひ起してゐた。
やがて小さな岬を廻つて中途の村に着くと、村端れの休み茶屋の前に出たので滝本が馭者台から飛び降りてラツキーに水を与へようとすると、不図堀口に出遇つた。
「やあ/\御苦労様!」
堀口は酷く愛想の好い態度で、滝本達を迎へた、「停車場まで迎へに出なければならなかつたんだが、時間が少々早過ぎて、遅れて済みませんでした。大変だつたらう。でも、まあ、此処で遇へて好かつた、あの……」
と堀口はローラの名前を訊くのであつた。滝本は大分勝手の違ふ心持で、名前だけを通じると、
「さう/\ローラさんか――。さあ、まあ、ちよつと降りて一ト休みして下さい。」
馬車の傍らに進み寄つて、ローラと百合子に次々に腕を差しのべて、いんぎんに茶屋の奥へ案内するのであつた。
「守夫君、ローラさんは日本語は何うなの?」
「出来るでせう、
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