へたゞけであつた。
 ラツキーに車を曳かせるのを思ふと滝本は、いろ/\と胸が痛んだが、百合子は関はぬと云ふし、それに踵の高い靴を穿いてゐる二人の娘に村までの道を歩かせるわけにも行かなかつたので、上着を脱ぎ棄てゝ馭者台に乗つた。
「ぢや俺は先へ行つてゐるぜ。若し途中で太一郎にでも会つたら、ラツキーの話なら塚本に来れば解ると、若し向方で何か云つたら左う云つて……」
 七郎は自転車で走つて行つた。

     十

 駅から森のR村までは海に臨んだ崖道に沿つて、山裾が翼になつて彎曲してゐる蜜柑や麦畑の丘の下をうね/\と迂廻しながら、三つの部落を過ぎた後に、北へ、山へ向つて二里ばかりの田圃道をたどらなければならなかつた。――午迄には未だ余程の間がある真夏のきらびやかな朝の陽《ひか》りのうちだつた。白い雲の峰が水平線の上に一塊りになつてぽつかりと浮んでゐた。山裾を回つて裏側の道へ向ふ時は恰度崖道が海の上へ向いてゐるやうなかたちになつて、沖合の雲が脚下に見降せるのであつた。滝本は、なるべくラツキーの脚並みを和やかに保つて、座席の者と話を交しながらすゝんで行つた。ローラは次々に展開されて来る新しい風
前へ 次へ
全106ページ中76ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 信一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング