を振つてゐた。鳥類の群が到着したやうな騒がしさであつた。六尺豊かの赧顔の紳士が、ローラは横抱きに両腕に載せて悠々と人々を分けてプラツトホームに降りて来ると、滝本には到底聞きとれなかつた早口で愛嬌めいたことを云ひながら――さあ、どうぞうけとつてお呉れ、私達のローラを――さう云つて滝本の胸先に突きつけたので、滝本も亦紳士と同じやうに両腕の上に享けなければならなかつた。滝本があかくなつてローラをうけとると、列車の中の人達が一勢に鬨の声を挙げた。そして、慌しく幾人もの人達が次々に降りて来てローラの額やら頬やら唇に激しい接吻の雨を浴せてチヨコレートの包や花束などでローラの胸を埋めた。中には、さめ/″\と涙を滾してゐる年寄りの婦人もあつた。
 あとでローラが云つたのだつたが、これでもうローラは一行の者とは再び日本では会はないであらうといふことだつたので、あのやうに皆なが、事の他感情に走つてゐたのであるさうだつた。道理でつい此間|埠頭場《はとば》で彼等を迎へた時に比べると全《まる》で趣きが変つてゐた――と滝本は気づいた。花束や菓子の箱などに埋れたローラを抱きあげてゐる滝本を中心にして、突差の間に、記
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