日々を送つてゐる――といふことなどを伝へると、ローラもその仲間に加はりたいと云つた。
 一行は日光から松島を見物して、引き返して関西へ赴くところだつた。横浜と東京で二三日行動を共にして一端村に引き返してゐた滝本は百合子を誘つて、国府津駅で、一行に別れを告げて村へ来る筈のローラを待つた。
「ローラさんは日本語が出来る?」
「大分拙くなつたが、直ぐに慣れる程度だよ、あの位ゐでは――。前には此方こそRさんの家庭ぢや英語ばかりだつたんだが、今度会つて見ると恰で僕が、それが出来なくなつてゐるのに驚いたよ。それに比べるとローラの日本語の方がずつと確かだつたよ。」
「妾も日本語でないと困るわ。だけど英語だと、とても日本語ぢや云へさうもない感情的なことが――平気で云へるのは面白いと妾思つてゐるのよ。」
「例へば何んな風に?」
「何んな風と云つても困るけれど……」
 と百合子は愛嬌に富んだ首を大業に傾けて何か思ひ付いたことを云つて見ようとする思案の眼を挙げたりした。
 間もなく列車が到着したので二人は会話を断《き》つて、用意をしてゐると、ローラは窓から伴れの人達と一処に半身を乗り出して切《しき》りと手布
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