の面影もそれほどはつきり思ひ出せなくなつたが、髪の毛のすき透るやうな鳶色の具合、眼の玉の碧さ、そして皮膚の白い陶器に似た艶の態《さま》は、相当の注意を向けて眺めても混血児とは解らなかつた。そんなやうなことで彼女が何か片身の狭い思ひでもしてゐるのではなからうかなどゝ憂へた験しもあつたが、凡そ他の西洋人達の中に見比べても見境ひのつかぬのを知つて、滝本は、自分で可笑しく思ひながらも秘かに胸を撫で降した。もう一つ別に、彼に安易さを覚へさせたのは、彼が心配したように「生活」を求めて彼女が訪れて来たのではなくつて、全く単純な観光客として、小さな観光団に加つて、序でに、眼色の変つた兄貴にも会つて行かう――位ゐの、全く安楽な状態で、遊びに来たのであるといふことだつた。一行と一処に帰国しても関はないし、都合に依つては自分だけ滝本の許に幾月でもとゞまつても差支へないといふ話であつた。
滝本が、この頃の自分の生活のかたち[#「かたち」に傍点]に就いて最も手短かに説明した後に、今では皆なで森の屋敷を占領して、日本の old《オールド》 Romance《ローマンス》 の時代を髣髴するやうな空気の中で学生らしい
前へ
次へ
全106ページ中69ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 信一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング