にだけは、物質上の分配をしたい――滝本のそんな考へが百合子には無駄に思はれた。
「マヽと一緒に来るのか知ら?」
百合子は、わざと白々しく云つた。
「観光団に加つて、ひとりで来るらしい。親父が送つてゐた生活費の最後の分を、そのために貯へて置いたのだつて――」
「兄さんに会ふために、遥々と海を渡つて来るなんて、それだけで、とても楽しいことだらうな――」
皆な同じやうに、新しい生活の出発点に立つてゐるのだから、来てからの上で、
「さうだ、妾がお友達になるわ。」
と百合子は、片づけた。――「守夫さん、相対性原理の説明をして呉れない。」
二
夕暮時になつたので二人は部屋を出て、海の見える縁側に出た。
「小父さん、今日は――何時妾が来たか知つてゐて?」
留守番の年寄が、庭にゐたのを見て百合子は声をかけた。年寄は、驚いて、暫く見なかつた間に、すつかり立派なお嬢さんになつてしまつて、眼《ま》のあたりに見ても、声をかけられるまでは、あなたとは気づかなかつた――などと見惚れた。
「今夜、御馳走してね。手伝ふわ。妾、泊つて行くのよ。」
「御馳走は何にもありませんよ。」
「ぢや、妾が何
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