たから皆なを招んで頂戴な。」
で滝本が蔵中へとつて返さうと、渡り廊下のところまで来ると、あまり此方が時間をとつたことを案じて武一達も降りて来たところだつた。武一は、袋に入つた薙刀を担いでゐた。そして、
「こいつは、何とかいふ古刀で、柄の処々に金などが巻いてあるから相当なものだらうと思つて持ち出して来たよ。竹下の箱は白磁の観音の像だ。落すと割れてしまふから――」と、後の竹下を振り返つたのを滝本が見ると、彼は長さ三尺ばかりの大きさの箱を縦に、子供を背《せほ》ふたやうに十文字に細紐で背中にくゝりつけてゐた。
「村井は?」
「……あいつは錦絵に見惚れてゐて動かうともしない。呼んで来て呉れ。」滝本が蔵の三階へ上つて行くと、村井は行灯の傍らで、面も何も脱ぎ棄てゝ、素晴しい興奮の眼を輝かせてゐたが、足音を耳にすると、慌てゝ灯りを吹き消した。
「俺だよ、村井! 何うしたんだ?」
滝本は懐中電灯をつきつけた。
「百合さんぢやないかと思つて吃驚したんだ。――おい、この猛烈な絵を見ろよ。……驚いたなあ!」
――グロテスクな戯画の巻物だつた。村井は、滝本の眼の先でそれらの巻物の数々を手早く繰り展げて行つ
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