飽かずに眺めてゐた。
そして近頃の不思議な生活を今更のやうに考へたり、恰で形のない綺麗な妙にうら寂しい夢に誘はれたりしてゐると、頭の上から、
「何を独りでそんな処で考へ込んでゐるの、それとも何か目星しいものが見つかつたの?」
と百合子が呼びかけた。――振り仰ぐと、百合子は恰度仁王像の肩から灯りと一処に覗き出てゐた。
「皆なは三階で休憩ですつて――それでね、お腹が空いてしまつたからパンを取りに行くついでに、ブラツク・ドラゴンの寝息を窺つて来る使命を亨けたのよ。途中まで一処に行つて見ない?」
百合子が左う云ふので滝本が、其由を三階へ向つて声を掛けると、
「おーい。」
と武一が呼応した。「――乾盃をしようぢやないか。何とかして来いよ。」
「さあ、早く/\!」
百合子は滝本の手をとつた、「斯うすれば灯りなんて要らないわね――焦れつたいわ、こんな雪洞なんて……」
――扉を内に引くと、月の光りが、とても明るく流れ込んだ。振り返つて見ると、光りは恰度鶴の脚元の辺まで達して、白い翼だけがはつきりと浮び出た。手を執つたまゝ、駆けて長廊下を渡つた。それでも、歩きながら斯んなことを話合つた。
「
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