花瓶の傍らに立つてゐた。滝本は、立ちどまつて思はずジヤツキの頭に手を触れずには居られなかつた。また傍らの鶯の籠をのぞいて見ると、その中には百合子達の亡くなつた母のペツトであつた「タチバナ」が、杖から技へ飛び降りようと身構へてゐた。百合子が子供の頃に飼つた悪戯鸚鵡の「ミンミー」が鹿の角の刀掛けにとまつてゐるかと思ふと、古典版のブリタニカの書棚の前では印度産の大孔雀が、見事に翼を拡げてゐた。これは嘗て森氏が友達の海軍将校から贈られたもので、村に着いた当座は見物人が群がり寄せて大変な騒ぎであつた。
それらの物体の影が、百合子の揺り動かす雪洞に伴れて伸びたり縮んだりした。さうかと思ふと、斯んな金目にならぬガラクタには眼も呉れずに踏み越へて行く夜盗達が、懐中電灯をピカ/\と振り回しながら脚元を照らしたり、隅々を見とゞけたりする毎に、それらの動物が闇の中から稲妻を浴びて飛び出すかのやうに映つた。――彼等は、二階から三階へおし上つて今日こそは最も運び出し憎い重荷を持出さうと決めたのである。
滝本は階段の昇り口で見栄を切つてゐる仁王の像の傍らから、手にする電気の光りを放ちながら動物達の躍動する影を
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