して素知らぬ風を装ふ話振りと云ひ、凡そもう何処にも怯えた気色のない堂々たるロビンフツドの徒党であつた。
彼等は村の青年団から剣術道具を借り出して竹刀で各自の背に荷ひながら丘を越へた森の村の青年団と試合に赴く風を装つてゐたのである。実際、向ふへ行き着いて見て、森の屋敷の固めを踏み越え損つた時には、其処の村の道場で、堀口や篠谷方の若者を相手に激しい勝負を渡り合つて鬱憤を晴すのが常だつた。此方は遇然にも並《そろ》つた初段級の腕達者ぞろひであつたから、彼等に負《ひけ》をとつた験はなかつた。就中竹下の面取りの早業と村井の刀捌きの目醒しさでは、R村の連中は悉く眼を視張つて、一体彼奴等二人は何処からやつて来た天狗なんだらう。ついぞこの辺りに見たこともない達人ではないか。吾々のチームに若しもあれ位のが二三人居たら何処へでも遠征して近在に覇を唱へてやるんだが――と囁き合つてゐた。この近在では軟式野球よりも遥かに剣道の方が隆盛で、年々春秋のリーグ戦になると村中がその争覇戦に熱狂するといふ有様であつた。
「今夜もお並ひでお出かけですかね。この分では秋のペナントはH村のものだといふ評判ですから、まあ精々練習
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