から、徒党を組んで逆襲して来るに違ひない。逃げなければならない。」
彼はラツキーにまたがると、渚に添うて駆け出して行つた。――まつたく、この辺りには篠谷に反感を持つてゐる多くの率直な漁夫がゐて、今も七郎が砂を蹴立てゝ立ち去るのと、相手が太一郎であつたことを認めた網干の連中は仕事を止めて、がや/\と円陣をつくつたところであつた。そして、一目散に遠ざかつて行く太一郎を見ると、一勢にワーツといふ鬨の声を挙げた。その嘲笑の声を追跡と聞き違へて太一郎は夢中でラツキーの腹を蹴つてゐた。
遥かの松林のスロープから、網干の風景をスケツチしてゐた Authony《オーソニー》 の竹下も、驚いて鉛筆をおいて立ちあがつた。
「塚本君ぢやないか、何うしたんだ?」
竹下は、鬼のやうな格構で両眼に涙を一杯溜た七郎が松林を脱けて行かうとしてゐる姿を認めて、追ひすがつた。
八
武一を先に立て、滝本等三人は、また森の屋敷へ忍び込む途すがらであつた。これは既に幾度目かの夜盗の仕事である。
一同の物腰態度は稍円熟の境に達して、脚どりと云ひ、咳払ひの具合と云ひ、道往く人に出遇つた時の、何気ない挨拶を交
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