思つて、今度の妾達の新しいお母さん――」
百合子は、云ひかけて、何の蟠りもなく、ふわツ! と笑つた。
「あの母さんの気嫌をとるだけのことで、逆に、いろ/\と妾達に難癖をつけたりなんかするなんて、馬鹿/\し過ぎるわ。そんなこと何うでも好い、兎も角、妾、あのお父さんの顰《しか》め顔だけが滑稽だわ。ナンセンスたら、ないぢやないの!」
思ひ出しても笑はずには居られない! と云つて、百合子は、父親の声色などをつかひながら、腹を抱へて、傍らの寝台に倒れたりした。
「家を出て……そして?」
「まあ、守夫さんたら、何うしたつて云ふのよ。何を、いち/\、妙に、考へ深さうな眼つきばかりしてゐるの――家なんて、もう、とつくに出てゐるわけぢやないの。――学校だつて、もう止めるわ。それとも兄さんの働きで、行かれゝば、続けるし……」
百合子は、二年程前に、やはり東京で女学校を卒業してから、今は語学の専門学校へ通つてゐた。――滝本も二年前に、大学の理科を出てゐた。と同時に、父の死に出遇つた。滝本の母は、自分の経済上の安全を計つて、新しい負債をつくり、負債だけを彼に譲つて、長男である彼を、半狂人的の遊蕩児と吹聴
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