に達すると、雲ひとつ見えない青空をスクリーンにして武張つて大の字に腕を挙げ、熱い意気を示すかのやうであつた。――丘に反射する雨のやうな陽《ひかり》が眼ぶしく明る過ぎて、武一の姿だけが、見霞むデイライト・スクリーンの真ン中にぽつんとシルエツトになつて映り出てゐるので、一体何方を向いてゐるのか見定め憎かつた。が、一息つくとそのまゝ向ひ側に降りて行つたので、此方を背にしてゐたことが滝本に解つた。武一は、丘の向ひ側の村にむかつて、武張つてゐたわけである。ハンスの行手を見定めに行つたのだらうと滝本は思つたが、それにしては大分力の容れ具合が凄じ過ぎる! と軽い不安の念に打たれた。
 俺は今のところ君達のやうに自分の仕事を持たぬ身であるから、その時間には、独りで思つたまゝの事を遂行してゐる――武一は、さつきそんな事を云つてゐたが? ――と滝本は思ひながら、翻訳の仕事を展げてゐた。彼の仕事は、星学大系といふ出版物の一部分であつた。

     七

 八重の家は水車小屋に並んだ村境ひの、馬蹄の中に塚本と誌したくゞり戸のついた鍛冶屋である。父親は蜜柑畑の仕事を持つて殆んど滝本の方に寝泊りをしてゐるし、兄
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