かのやうな沈着な羽ばたきと共に、青空を指してゆらゆらと舞ひ上つた。そして党員達の頭上に、円光のやうな輝かしい螺線の輪を描きながら、R村の方角を見定めると、丘の彼方を目指して流星の勢ひで姿を没した。
皆は、何んな事件が起らうとも朝の幾時間かは夫々自分のための仕事にたづさはるといふ掟の下に、プレトン流の共和生活を始めたところなので、この第一日の朝も斯うしてハンスを見送つてしまふと、急に黙り込んで家の中へ立ち戻つた。
竹下は、スケツチ・ブツクを携へて水車小屋の見える街道を横切つて行つた。村井は、滝本の書架から二三冊の詩集をとり出して、また庭に出て芝生に寝転んでゐた。夏の砂日傘《サンド・パラソル》を立てゝ、彼は、その影で、
「マイエーの蛮族は草を追ふた、妻と子と家畜を従へ、一袋の銀貨を腰につけ――」
などゝ、詠《うた》ひながら創作の構想に耽つてゐた。
滝本は、自分の部屋に来て机に凭つたが、空け放された窓から見える明るい丘をぼんやり眺めてゐた。――見ると、ジクザクの山径を脚速く昇つて行く人形のやうな男が此方を振り返つて帽子を振つた。――武一である。滝本も手を振つた。
間もなく武一は頂き
前へ
次へ
全106ページ中39ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 信一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング