うな意味を誌した後に、
「真に古めかしい物語の通りになつてしまつたわ。で、あなたはあの時あたしが云つたやうなほんとうのナイトになつて、この次の此方からの便りの指定に従つて、その晩、ハルツの塔に幽閉されたお姫様を救ひ出しに来なければならなくなつたのよ。一先づ、そちらの消息をこの鳩に托して報じて下さい。」
 と書いてあつた。

     六

「空しく里に帰りて楯の蔭にあり。」
 森武一は、唇を噛みながら斯んなことを書き誌してから、[#ここから横組み]“St. Patrick《パトリツク》”[#ここで横組み終わり]と、署名した。
「では、俺は――」
 村井は、重い剣でも執りあげる身構へ見たいにシヤツの袖をたくしあげながら、
「Sebra《セブラ》 の意気込みだ。」
 と名前《セブラ》を連ねた。
「昔、勇士ありけり、その名を St. Authony《オーソニイ》 となん称びて、勇気に恵まれ、婦女を敬ひ、智謀に富む、長じて|南方の騎士《シルバー・ナイト》の旗下に馳せ、|青き炎の城《マジツク・ガーデン》を探るべく……」
 竹下は、奇妙な文句を暗詠《そらん》じながら物々しく筆を執つて[#ここから横
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