、ギヨロツと、斯んな眼で――」
百合子は、滑稽らしくクスツと肩をすぼめると両手でつくつた眼鏡の形ちを顔にあてゝ、物々しい苦顔を示した。――「暫く、妾の様子を凝ツと睨んでゐたかと思ふと、いきなり、そんな妙な髪《あたま》の者に家に居られては迷惑だ――と斯うなのよ。えゝ母さんも、ちやんと傍にゐて……」
云ひながら百合子は、キヤツプを、つかみとつて壁に投げつけた。――クロースバヴの髪《かみ》だつた。
「で、斯んな重い鞄を持つて、此処まで来てしまつたの? はじめ妾、冗談かと思つたわ、父さん――でも、断然、そのまゝの顔つきぢやないの。妾、睨めつこをしてゐたわ、そしたら、遂々妾が、笑ひ出しちやつたの――憤つたわ、父さん。――兄さんが、手紙でいろ/\云つて寄したけれど、それほどとは思はなかつた。」
「…………」
滝本は、そんな事件を、みぢんも重苦しく考へないで、平気でゐられる百合子に羨望の念を感じた。
百合子は、断然、父親から離れる事に兄と話が纏つてゐる――と云つた。継母、破産、父の焦躁、家出――と、凡そ暗澹たる周囲にかこまれてゐながら、決してじめ/\とした考へに襲はれることなしに、寧ろ喜劇的
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