「然し、それは空しいエロ風景だな。」
 と叫んだりした。
 武一は、あかくなつて話頭を転じた。
「村井は小説よりも寧ろ鉄砲の方が巧いと自慢してゐるし、竹下の腕力は三人前なんだ。そんなことが、悉く、お伽噺の中のチヤムピオンのやうに現実で役に立つといふことになつてゐるんだ。守夫と俺は、田園の、かくれたるスポーツ・マンだし……」
「然も俺は料理の名人だ。」
 と竹下が鼻を高くした。「下宿を追つ払はれた村井と失業者の森を、俺のアパートで今日までちやんと、この腕で養つて来たんだからな!」
「これからは瓦斯や水道を止められる心配はないから、いくらでも腕は揮へるだらう。」
 三人ともいよ/\行き所がなくなつたので、皆なの持物を一切売り尽した上句、これだけの仕度を整へて出発して来たのだ、若し此処が不首尾であつたらキヤムプを続けるつもりだつた――といふことを村井が滝本に説明したりした。――滝本は、凡ゆる生活上の難儀をものともせずに踏み超えて、ひたすら自分の芸術の道に生きようとしてゐる竹下や村井の情熱と自信を尊く思つた。
 今夜限り――などと約して、ビールの乾盃を続けながら、レコードをかけて男同士で踊つ
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