、ガソリンさへあれば――」
「うち[#「うち」に傍点]のタイキはゐるか知ら?」
 森は自家の馬のことを訊ねた。
「お百合の話に依ると塚田村の篠谷に預けられてゐるさうだよ。」
「よしツ――掠奪してやる。――おい、竹下、篠谷といふのは業慾な金貸者なんだよ。」
「俺はその男から金を借りたいな。」
 竹下が、嗤ひながらそんなことを云つたのに武一は耳も借さず、
「ロープやテントなどは守夫のところにあつたな。こいつ登山なんてしたこともないんだが――皆な巧みに利用するぞ。」
 と花やかに独りで点頭いてゐた。
 事々が、話題が、突飛過ぎて滝本はいろいろと我点が行かなかつたが、久し振りで友達に会つたことの面白さに恍惚としてゐた。そして伴れ戻されて行つた百合子の話などをした後に、
「敷き放しになつてゐた俺の寝床を見て、堀口が物凄い表情をした時には、少々参つたね。泊つたといふことで、すつかり逞しい想像を回らせてゐるのは、あんまりデカダン過ぎると思ふんだよ。」
 などと云ふと、村井と竹下が神妙に眼を視張つて、
「それあ愉快だ。ギツクリとしたであらう堀口といふ男の衝動を想像すると、何となく好い気味ではないか。」
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