・ローマン派の道を進まうといふ決心なんだよ。東京では今のところ、単に生活に追はれるだけで、自分の仕事を盛りたてようとする予猶が見出せないといふんだ。俺も二人の意見に賛成した――プラトンの体系に依る共和国をつくつて……」
 武一の云ふところに依ると、竹下も村井も、そして自分も、あまりに豊かな理想にもえて出かけて来たのだから口では説明しきれない、だが、恰も今宵は、武者修業の首途《かどで》にのぼつたジーグフリードが、先づ森の鍛冶屋を訪れて、剣を打ちはぢめた意気である――といふのであつた。
「で――武一、君は?」
「俺は東京の仕事さへ見つかれば、此方からでも通ふけれど――まあ、そんな話は後にして呉れ。」
 武一は滝本と同窓の理科出で、滝本と同じように未だはつきりと専門も見つからなかつたが、多分のプラトン的傾向も有つてゐた。
「それに俺には、やつぱし自分の手で片づけなければならない家の仕末もあるし――だが今度こそは愚図/\してはゐないよ。もう、一切の感情は卒業してしまつたから、ロビンの荒療治で退治てしまふ。何れプロツトに就いては守夫の頭も借りるだらう。……お前のオート・バイは使へるか?」
「あゝ
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