るであらう二人の者の心持になつて想像すると、滝本は酷く不健全な、そして目眩《めまぐる》しく甘美な陶酔に誘はれながら得体の知れぬ烈しい嫉妬感に襲はれた。
 滝本が二人の後から、裏庭に廻つて来て見ると、百合子は窓から半身を乗り出して、至極長閑な面持で、窓下の二人の者と何やら会話をとり交してゐる。――滝本には意外な光景だつた。
「守夫さん、何処へ行つていらしたの。妾、すつかり寝坊しちやつて、今母さん達に窓を叩かれて、吃驚して目を醒ましたところなのよ。」
 滝本の姿を見出すと同時に百合子は左う云つた。それで、窓下に立つてゐる堀口と伴れの婦人が滝本の方を振り返つた。
 と、堀口が極めて恬淡らしい豪傑気なひとり笑ひと一処に、
「やあ!」
 と云つて滝本の肩を叩いた。「今朝は、何うも、つい言葉の勢で飛んだ失敗をしてしまつたよ。悪く思はないで呉れ給へ。」
「どうも此度は、また百合子が――」
 傍らの婦人が続いて挨拶した。
「森さんの奥さん――」
 堀口が、百合子等の継母を滝本に紹介した。「君は始めてだつたかね。」夫人は主人の代りに出向いて来た由などをつけ加へた。
「ぢや、二階で待つてゐるからね。」
 
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