の婦人を顧た。――其処には、早朝に滝本が堀口の電話に起されて、飛び起きたまゝの寝道具が取り乱れてゐた。堀口が覗いた椽側の雨戸が一枚開いてゐるだけで、人の気合の有無も判別し憎いほどの暗さであつた。
急に声を潜めてしまつたので滝本のところまでは言葉は達しなかつたが、堀口は不思議な笑を堪へながら胸を張り出したり、屹ッと眼を据えて、何事かを囁きながら指差しをして、大業に点頭いたりした。――すると彼等は、更に何事かをひそ/\と耳打ちをしながら、足音を気遣ふような姿で、南天の繁みの間をくゞつて裏の方へ廻つて行つた。
二人は百合子を見つけ出すであらう――と滝本は思つたが、たゞ、変な人達だな! といふ心地がしたゞけだつた。そして彼等が、途方もない淫らな想像で勝手な好奇心を動かせてゐるらしいのに、馬鹿々々しさを覚へたゞけだつた。
自分は、それにしても今朝、堀口にあんなことを云はれて、何うしてあんなに逆上したのだらう――と滝本は、あの時の心的状態を回想して見ると、急に、わけもわからなく、百合子がいとほしく思はれて来た。――何も知らずに寝台に突ツ伏してゐるであらう百合子を、カーテンの間から覗き見してゐ
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