惑を顧慮するわけではなかつたが、自分達にとつて余りに途方もない言葉を、あのやうに信じきつた態度で放言する堀口を、百合子の前に見出すのは苦し過ぎる光景に違ひなかつた。
それよりも、斯んなところにうろ/\してゐるのを百合子に気づかれなかつたのも何よりの幸せであつた――レディの寝室の気合ひを窓の外から窺つてゐるなんて!
「そんな――」
滝本は思はず苦笑ひを浮べながら、家の囲りを半周して表の方へ抜け出て来ると、遥かに海が見降せる庭先の芝生に出て寝ころんでゐた。
――「さあ、どうぞこちらから……いえ、もう、お関ひなく――。玄関と来たら、いつでもちやんと錠がおりてゐるといふ仕末なんですから。はツはツ……いやはや、どうも――熱烈なものでして、世間態も何もあつたものぢやありません。」
堀口だな――と思つて滝本が振り返つて見ると、滝本が見知らぬ中年の婦人をいんぎんな様子で案内しながら、何時ものやうに大手を振つて庭先へ廻つて来る堀口であつた。泉水を隔てた木蔭に寝ころんでゐたので彼等は滝本に気づかなかつた。
堀口は椽側から座敷の中を覗くと、
「これは、何うも――」
と思はず嶮しく顔を顰めて、伴れ
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